コロナのため時間に余裕ができ、少しずつ身の回りのことを整理しています。ほぼ書き終えていたのに、アップせずに2年も経ってしまったこの旅行記もその1つ。やっと完成させました。
今読み返すと本当に夢のような旅だったことを実感します。自分の記録のために書いたものですが、もし良かったら読んでみてください。
この夏で4年目になる家族のヨット旅行。今年はトータル3週間といつもより長めのバーケーションがとれたので、前半2週間でバルカン半島を周遊し(バルカン半島旅行記1)、後半1週間はヨットをチャーターし、アドリア海に浮かぶクロアチアの島々を巡ってきました。
大自然と古い歴史、そして豊かな食材に恵まれたこの地域は、セーラー達にとってはまさに天国の地。底が見えるほど透明な海をクルーズしながら、古い街並みを訪れ、毎晩美味しいワインを飲みながら星空を見上げる、ゆっくりとした時間が流れるアドリア海の上で、そんな贅沢な時間を過ごしてきました。
August 25th
ヨットをチャーターしたのは、世界遺産に登録された古都トロギール。この街とすぐお隣のスプリットは、世界中からヨット好きが集まるとてもエキサイティングな街だ。マリーナがたくさんあって、私たちのようにヨットで旅立つ人々やクルーズで立ち寄る人々で溢れ、毎晩がお祭りのように賑わっている。
マリーナのすぐ目の前に見つけたアパートに一泊し、今日は早朝から出発の準備に取りかかかる。今回一番のチャレンジは、旅に必要な食料品などの必需品を全て現地で調達しなくてはならないこと。朝7時に主人とマーケットやスーパーで買い出ししてからマリーナまで届け、主人は2週間借りていたレンタカーを返しに、私はアパートに戻って朝食の支度に取りかかった。主人が戻ってきてから子供達を起こして朝食をすますと、荷物一式担いでマリーナに向かった。すでにこの時点でどっと疲れを感じている・・。
大抵ヨットのレンタルは土曜日スタートなので、マリナーは私たちのような旅行客でごった返していた。12時頃にやっとのことレンタルの手続きが始まり、ヨットに荷物を運び入れ、使い方を確認し、午後3時にマリーナを出発した。まぁ初日は大抵こんなものなんだけど、それにしても毎回何にそんなに?と思うくらいいろんなことに時間がかかる。でもとにかく無事に出発でき、一安心する。
トロギールの街がだんだんと遠くなってくると、いよいよ自分達がこの海の主役であることを実感し、ドキドキすると同時にワクワクしてきた。やっと少しだけこの先の旅のことを考える余裕が出てきた。
今晩はストームが近づいてるということで、目的地はマリーナの人に勧められた1時間半ほど先にあるBrač (ブラチ島)の奥まった入り江。良い風が吹いているので、早速帆をあげる。風向きも良好でグングンスピードを上げる中、遅めのランチにサンドイッチを食べ、日が暮れる前には目的地に到着することができた。
ストームが心配だったので、今夜はアンカーではなく、アンカーロープを係留ブイ(船が停泊するために設けられる浮標で、これに鎖やロープなどをかけることで船舶を固定させる)につないでの宿泊。アンカーとは違いブイは少しお金がかかるが、停泊する準備がとても簡単で楽なところが助かる。
子供達が泳いでる間に、今朝トロギールのスーパーで買ったイカを使ってリゾットを作った。夕飯はリゾットと簡単なサラダに、クロアチアの美味しいワイン。とりあえず無事に航海に出られたこと、そしてこれから始まるアドベンチャーに乾杯した!
August 26th
朝食をすまし、ヨットの周りで泳いだり釣りしたりのんびりした後に、ランチ用のパンでもあればと思い島へ向かった。本当に小さな店が一軒あったが、もちろんやってない。この辺り特有の長ーいバカンス中なんだろう。
パンをあきらめヨットに戻り、次の島へ向けて出発する。
目的地はこの旅で一番大きなリゾート、フヴァル島(Hvar Island)。大きなリゾートと言ってもそんなに気軽に行ける場所ではないので、観光客がたくさん訪れるとは言え、やはりまだまだ隠れ家的なリゾートして知られている。ワクワクした気持ちが高まるが、道のりは長い。交代で運転してくれる子供達を横目で見ながら、ゆっくり本を読んだ。ヨットは程よい風に吹かれながら、スムージにクルーズした。
ウトウトしかけていると、突然フヴァル島が見えてきた。丘の上まで続くレンガの家とその上にそびえるフヴァル城塞は、想像以上に迫力があって遠くから見ても実感できた。当たり前だけど、この世には自分の知らない世界がまだまだあることを実感する。こんなところにこんな街があるなんて・・。かなり興奮して気持ちが高まってきた。
観光地だけあって港は船の出入りが多いので、今日は運よく空いていたマリーナに停泊することにした。料金は高めだが、こんな賑わっている島で予約無しでスペースを確保できただけでもラッキーとのことだった。確かに大きな街ではディンギーを使わずにヨットから自由に出入りできるのは、便利だし楽しい。もう夏も終わろうというのに、港は大型ヨットでいっぱいだった。
いよいよ島に上陸する。人が少ないと言っても、バケーションを楽しむ観光客で通りは溢れていた。ここはラベンダーの島として知られており、そこら中からお土産用ラベンダーの良い香りがした。聖ステファノ聖堂がある中心の広場に行くと、レストランやカフェ、パフォーマーで賑わっていたが、ちょっと裏の路地に入るとほとんど観光客はいなく、人々の生活感を伺うことができた。迷路のように続く石畳の道を気の向くままぶらぶらと歩いた。知らない土地をあてもなく歩くことほど楽しいことはないと思う。
中心街に戻り、子供達のために釣り用の糸と針を買い、急かされながら船に戻った。子供達が釣りを楽しんでいる間に、島で調達したひき肉でミートボールスパゲティを作った。久しぶりの肉料理だったこともあり、あっと言う間に平らげてしまった。デザートにアルバニアを旅行中にもらったヘーゼルナッツが残っていたので、缶切りを使って割って食べた。アルバニア、数週間前に訪れた場所なのに、もう随分遠い昔のことのように感じられた。
子供達が寝静まった後デッキに出て、さっき買ってきたフヴァル島産の赤ワイン、プラヴァッツ・マリ(Plavac Mali)をあけた。ここはクロアチアの中でもワイン醸造地帯の一つとして知られており、美味しいワインが安価で手に入る。お味もなかなかである。でもこんなとこにいたら、どんなまずいワインでも美味しく感じられてしまうのかと思えてくる・・。
街中に明かりが灯り城塞がライトアップされて、とても神秘的に見えた。ここにいるのが夢なんじゃないかと思うたびに、フヴァル城塞を見上げ、夢じゃないことを再確認する。ちびちびとワインを飲みながら心地よい夜風に吹かれていると、寝るのがもったいなく思え、いつまでもそこから離れられなかった。
August 27th
興奮しているからかいつもより早く目覚める。せっかくなのでまだ寝ている子供達をおいて、フヴァルの街を散歩がてら主人と2人で朝市へ買い出し行った。早朝の街は人通りが少なく静かで、また違った印象を受けた。でも対照的に朝市は地元民で賑わっていた。パン、イカ、キュウリ、スイスチャード、桃、サラミにヨーグルトを買い込んだ。
野菜入りのスクランブルエッグと出来立てのパンにヨーグルトを食べ、次の目的地へ向けて出発する。次の目的地は、ヴィス島である。
残念ながらヨット旅行者向けのヴィス島の情報があまりなく(海の深さやブイのことなど一般観光用とは違う情報が必要)、かろうじてネット検索で手に入れた情報を元にスティニヴァビーチへ向かうことにした。
写真からもわかるようにひっそりとたたずむビーチへ続く入江は、絵になる魅力的な場所だった。水も透明で綺麗で、すぐにでも飛び込んでしまいたいくらいだった。でもまずはアンカーを下ろしてヨットをとめなければならない。実はヨットに乗っていて一番嫌なのが、この作業だった。
ちょっと説明すると、ヨットはモーターボートと違って強力なモーターがないため、風に左右され安く即座にハンドルやブレーキがきかない。だから予め風向きや潮の流れなどを計算してから行動しないと、隣のボートや岩場にぶつかってしまう。それにヨットの底にはキールが突き出てるため常に海の深さを確認してないと、海底にキールが食い込んでしまう心配がある。そんな色々なことを考慮しなくてはいけないこの緊張する作業中、大抵既に停泊している暇人が、ワインを片手にこちらの操作を楽しそうに見学している。そんなわけでこの作業が嫌いだった。
その上この綺麗なアドリア海はアメリカ東海岸と全く違い、海岸線ギリギリまで海が深く、アンカーをうまく海底に食いつかせることができない。だからと言って海岸に近づき過ぎるとヨットが岩場にぶつかってしまいそうになる。実は今回の旅ではこの件で、ストレスを感じる瞬間がかなり多くあった。やはり知らない海というのはそういうことなのかもしれない。
というわけで、ここは狭い上に既にヨットでいっぱいでなかなかうまく止められず、何度もチャレンジしようとする主人を断念させ、この天国のような場所に立ち寄らずに去ることに決めた。自分らしくない決断だと思いながらも・・。
気を取り直しランチを食べて、Rukavac(ルカバックと読むのかな?)へ向かった。ここを選んだ特に大きな理由はないが、ネット検索した少ない情報で、ここのビーチが綺麗と勧めていたからだった。
港に入るとレストランが数件あるのみで、時に何もない静かなビーチだった。アンカーを下ろそうとすると、ここは係留ブイを使用することを義務ずけられているが、レストランで食事をすればブイ代は無料になるとのことだった。ヨットを留めて休憩すると、前々から調子が悪かったディンギーのエンジンの件で、レンタル会社と連絡を取ってみた。半分諦めていたが、手配してくれたエンジニアがすぐに来てくれ、ここでは直せないからと修理工場に持ち帰って明日届けてくれるとのことだった。残念ながらこう言ったエンジンのハプニングは多い。でも修理に来てくれたことは、奇跡だった。
海に潜って遊び終わる頃ちょうどレストランからの迎えのボートが到着し、すぐに乗り込んだ。丘の上にほとんど客がいないレストランがぽつんとある。海を見下ろせるデッキに座って、タコのサラダ、アンチョビのマリネ、スモークしたメカジキとビールを頼んだ。見かけから期待はしてなかったが、オリーブオイルとケッパーたっぷりの地中海らしい料理は、食材が新鮮でとても美味しかった。
今回旅をしながら毎日料理をしているうちに、新鮮なオリーブオイルの素晴らしさに改めて気づかされた。コールドプレスされたオリーブオイルはフルーティーでさっぱりしていて、これにワインとパンがあれば、他に何もいらないんじゃないかとさえ思えてくる。
真っ暗な夜道を携帯電話の明かりを頼りに船着場まで歩く。そんな私達をボートの運転手は笑いながら、暗闇をスタスタ歩いて行った。
ヨットに着くと昨日買ったワインを飲みながら、みんなでトランプをした。昨日とは打って変わった静けさが広がる。これはこれの良さがある。しばらくすると眩しいくらいの月が顔を出した。そう言えば、今日は満月だった。
August 28t
今日はヴィス島の中でも最も大きな街ヴィスへ向かう。エンジンが直って来るまで海で泳いでのんびりし、昼前には無事に出発できた。
ヴィスへ向かう前に、ここからすぐ近くある緑の洞窟(ビシェヴォ洞窟)に立ち寄った。青の洞窟ほどは知られてないが、いくつかのツアーボートが来ていた。洞窟の中ではモーターが使えないのでツアーボートは入れなかったが、ディンギーをオールで漕げば入って行けるとのことだった。早速洞窟の横にある有料のブイにヨットを留め、暗い洞窟の中へゆっくりと向かった。中に入ると真っ暗な洞窟の天井の小さな穴から差し込む光が海底を照らし、エメラルドグリーンに輝いてとても綺麗だった。ちらっと見学して帰って行く観光客とは対照に、ディンギーという強い味方がある我々は、この洞窟の中でいつまでも泳いで遊んだ。わざわざ来る観光地ではないかもしれないが、この洞窟の中でのんびりできるのだったらかなりの価値はあった。底まで見える透明なこの海にどっぷり浸かって、光と闇の中を何度も何度も往復した。ツアーのラッシュアワーが過ぎたせいか、気づいたら辺りには他に誰もいなく我々だけが取り残され、薄気味悪く同時に神秘的に感じられた。
こんなに泳いだのは本当に久しぶりだった。満足するとディンギーを漕いでヨットに戻り、簡単なランチを食べてヴィスの街へ向けて出発した(メモ:途中Stoncicaという奥まった入江のビーチを見学した)。
泳ぎ疲れたせいかウトウトしていると、あっという間にヴィスの街が見えてきた。空いているブイにヨットを無事に留めると、ディンギーに乗って街へ向かった。
ヴィスの街は、こじんまりとしたフヴァル島という感じだった。マリーナには同様に世界中のヨットが並んでいるが、観光客はずっと少なく地元の人で活気に溢れていた。洗濯物を干したりスーパーの前で立ち話してる人達が目に入ってくる。のんびりとした時間が流れるこの街がすぐに気に入ってしまった。
フヴァル島が憧れの地だとしたら、ヴィス島はもう夢の国という気がした。地中海性気候という温暖な気候とアドリア海の大自然に囲まれたこの島は、中部ダルマチア海域で最も外洋にある。白い石畳や白い煉瓦造りの建物を見ていると、クロアチアとはまた違った異国の地にいる気がした。
メイン通りから裏の細い路地までくまなく歩く。そして通りを曲がるたびに出会う絵ハガキのような可愛らしい景色を目にし、何度もため息が出た。カフェに座ってお茶したり、アイスクリームを食べたり、ベーカリーでパンを買ったり、ベンチに座りながら海を見たり、この街をあらゆる角度から満喫した。
スーパーで夕飯の食事とワインを買って、日が沈みかける頃ヨットに戻った。隣のヨットから流れてくるセンスの良いジャズを聴きながら、夕飯を食べた。スーパーで買ったクロアチア北部の白ワインが思いのほか美味しく、気づいたらあっと言う間にボトルが空になっていた。食後は子供達とトランプで盛り上がり、満足した子供達はベッドに入るとすぐに寝息を立てていた。本当に何1つ文句の無い1日だった。
全てが寝静まった後デッキに座って空を見上げていると、随分遠くまで来たことを改めて実感した。そして同じ星空の下、古代ギリシャ人の墓地や古代ローマの浴場が残ると言うこの島の歴史を肌で感じられる気がした。夜というのはこうした想像力を掻き立ててくれるから、やっぱり大好きな時間だ。そんなわけで、今夜も1人で夜更かし・・。
August 29th
朝ごはんをすませてから、出発前の買い出しのためにヴィスの街へもう一度戻り、昨日美味しかったワインとパン、そして魚を買った。子供達が毎晩釣りをしているので魚は買わずにいたのだが、あまりに何も釣れないのでいよいよ諦めて買うことにした。
さて今日の行き先、今まで気の向くままにクルーズしていたがバケーションも折り返し地点を過ぎたため、そろそろマリーナに向かって計画的に移動する必要があった。どこに行こうか地図を見ながら迷った末、フヴァル島の近くにあるOtok Marinkovac という小さな島を選んだ。
途中第二次世界大戦中に潜水艦を隠していたというトンネルに立ち寄った。こんなに平和なヴィス島も世界大戦中は主要海軍基地の一つとして使われていたらしい。クロアチアがまだユーゴスラビアだった頃のことだ。冷んやりとしたトンネルの中は、ちょっと不気味な気がした。
到着したこの小さな島の入り江もとても小さくて、まるで大きなプールにでもいるように波も穏やかだった。アクア色の海は底までくっきり見え、ヨットの上からタコが泳いてるのまで見えるほど。子供達はすっかり気に入って、飛び込みの練習をしたりディンギーを乗り回したり、ずっと楽しそうに遊んでいる。休憩も兼ねて選んだこの場所、大正解だったようだ。今日は1日ここでのんびりする予定だった。
夕方になってフヴァル島からの日帰り観光客が帰ると、主人と2人で静まりかえった島に渡って海岸沿いを散歩した。途中裏庭くらいの小さな可愛らしいビーチを見つけ、夕日が沈みうっすら暗くなるまでそこに座って、この美しい自然を堪能した。
暗くなってから釣りを始めた子供達が、変な魚を釣ってきた。調べて見るとGarfish(ガーフィッシュ?)という魚らしい。唐揚げにしたら意外にも美味しく驚いた。今回はあまり魚が釣れてなかったので、これも合わせてこのビーチの良い思い出となった。
のんびりと過ごした1日の最後は、トランプで締めくくる。明日からはトロギールに向けて移動が長くなるから、今日1日のんびりできて良かったと子供達の寝顔を見ながら思った。
August 30th
すっかりこの海が気に入った子供達、朝食後もまた海の中でじゃぶじゃぶ楽しそうにしている。名残惜しいがヨットの準備が整うとそんな海にもお別れし、次の目的地に向けて静かに出発した。
途中、Brač (ブラチ島)の街ミルナ(Milna)を遠目で見学する。生活感溢れた街で、立ち寄れないのが残念だった。
今日の目的地、Šolta(ショルタ島)のStračinskaに到着したが、平凡でなんのチャームもなく気に入らなかった。折り返したバケーション後半にはありがちなことだが、ワガママを言って別の場所へ移動した。
今度選んだのは、Brač (ブラチ島)のOsibova Bay ビーチ。さっきの場所とさほど違いは無かったが、もう諦めてここにすることにした。さてアンカーを使ってヨットを留めようとすると、初日に説明したように、この辺りの海は海岸近くまで深いので、かなり陸に近づかないと深すぎてアンカーが海底に食い込まない。よく見たら周囲のヨットは、アンカーだけでなく陸地側もロープで固定していた。主人がヨットを操縦し、長男にロープを固定してもらおうとしたが、なかなかうまくいかない。風に押されるたびに、ヨットが岩場や隣のヨットにぶつかりそうになり、ドキドキする。何度かトライしたが、結局あきらめて、有料のブイを利用することにした。ドキドキしたあげく、こんなスペースがいっぱいある入り江でブイを使うなんて・・と不機嫌になる。
というわけで個人的には最後の夜だと言うのに、なんだか満足のいかない夜になった。唯一の救いは、魚が釣れたことだった。
August 31th
今日の目的地は、いよいよトロギールのマリーナ。夕方6時までに戻る必要がある。時間はたっぷりあるのでどこか立ち寄れないかと色々検索し、Stomorska(ストモルスカ)という街を選んだ。
街が遠くに見えてくると、上陸する前から一目で気に入ってしまい、昨日から沈んでいた気持ちが一気に晴れてくる。
海沿いのメイン通りにバカンス客用のレストラン数件、カフェとベーカリーと小さなスーパーがあるだけの小さな街だったが、探索するのにちょうど良い大きさだった。街には綺麗なビーチもあって、残りの時間は海で泳いだ。迫ってくる時間に焦らされないよう、この瞬間だけを見つめてのんびり楽しんだ。
想像以上の最終日に大満足した後は、いよいよトロギールへ向かう。疲れが出たのか、名残惜しいのか、現実に戻るのが怖いのか、皆無言だった。しかし遠くにトロギールが見えると、まるで故郷に帰って来たかのように懐かしく感じられ、空気が和らいだ。
港は出航した1週間前と同様、チャーターしたヨットを返す人でいっぱいで、自分達のマリーナに辿り着くまで一苦労だった。マリーナが見えてくると、オーナーと従業員が飛び乗ってきて、ここからの操縦を仕切ってくれた。この瞬間肩の荷が一気に下りる。さすがプロ、操縦さばきは見事だった。
旅を終えた人々で賑わっていたマリーナも、夕暮れには静かになっていた。今日までにマリーナに戻る返す必要があったが、チェックアウトは明日の朝なので、今夜はここで(ヨット)一晩過ごす予定だった。
しばらくぼんやりしていたが、気を取り直して売店でビールを買って、無事に終わった航海を祝って乾杯した。外国の知らない海でのセーリングは、想像以上に大きなアドベンチャーだった。いろんな思いが頭をよぎって、しばらく無言でトロギールの街を見つめていたが、エネルギーが燃え尽きてしまう前に、我々セーラーの街トロギールへ繰り出した。再び訪れるこの街は懐かしく感じられ、1週間前とはまた違ってみえた。そしてやり遂げた満足感からか、みんなひと回り成長したように感じられた。
September 1st
朝7時に起床し、ミュースリーで簡単な朝食をすませ、荷物をまとめて9時にヨットを出る。最終点検が終わると主人はレンタカーを取りに、私達はマリーナで久しぶりにゆっくりシャワーを浴びた。
主人が戻ると荷物を積み込み、帰りの空港に比較的近いペリエシャツ半島にあるマリストンという街へ向けて出発した。もちろん走って5分も経たない内にカフェでコーヒー休憩をしたが・・。久しぶりのクロアチアコーヒー、体に染みて美味しい。
トロギールへはサラエボ方面から入国したので、この道は通るのは初めてだが、なかなか景色の良い道だった。入り組んだ田舎の山間の道には、フルーツスタンドがいくつも並び、ぶどうやイチジクなどたくさんの果物が売られている。先を急いでいたものの、途中見かけたサインに誘われワイナリーへ。ほとんど舗装もされてない砂利道を登っていくと、突然素敵なワイナリーが目の前に現れてびっくりする。せっかくなので、この広大な景色を前に赤ワインのテースティングをした。帰り際に道沿にたくさん生っているイチジクをスナック用にもぎ取って、また走り出した。こんなことできるのも今日が最後と思いながら。
地図を見てもなかなか気づかないが、クロアチアの海岸はほんの一部とぎれて、ボスニア・ヘルツェゴビナ領になっている。多くの人は素通りしてしまうのだが、ボスニアはクロアチアに比べ物価が安いことを知っている我々は、計画通りここでランチを食べることにした。ベーカリーを探してボスニア名物のパイ、ブレクをお腹いっぱい食べ、最後はジェラートとエスプレッソで締めくくる。些細なことだが、個人的にはこんなことが旅行を楽しくする重要な要素だと思う。
今日の宿泊地マリストンに到着する。ドゥブロヴニクから車でたったの 1 時間とは思えない程、静かな町だった。滞在先のオーナーに案内された駐車場に車を停め、荷物を持って宿泊予定のアパートへ向かう。クロアチアの古い街は車が乗り入れできないので、ここからは歩いての移動だ。オーナーに鍵をもらい、小さな2階建てのアパートに入ると、テーブルの上には緑のグレープが置いてあった。途中道端で見つけたイチジクと冷たいビールで、少し休憩した。ぶどうは少し酸っぱかったけど、味が濃厚で美味しかった。
元気を取り戻すと、町を歩いた。と言ってもすごく小さくあっと言うまに一周してしまった。それにしても観光地に近いのに、どうしてこんなに素朴な町のままいられるのだろうか?チャーミングな風景ばかりが広がり、カメラを離す瞬間さえなかった。
今度はこの町の先にあるもう少し大きな町ストンへ向かう。ここは長大な城壁と古くから変わらない伝統的な天日塩づくりで知られいる。夕暮れ時の塩田に、周囲の景色が反射して綺麗だった。町のメイン通りにはホテルやレストランが並んでいたが、ほとんど人はいなく静かだった。
帰りがけにホテルの横のカフェに立ち寄って、子供達はジャラート、大人はワインをオーダーし、海を見ながらくつろいだ。もう暗くなってたけど、なんだか興奮してアパートに戻る気分になれなかった。多分それは今夜がクロアチア最後の夜だからというのが大きいのだろう。3週間のバケーションが終わろうとしているのだから、当然といえば当然かもしれない。
September 2nd
最後の朝がやってきた。今夜のフライトは、夜8時。ここから1時間半ほど先の空港に夕方6時頃に着けば良いので、時間はたっぷりあった。
コルチュラ島までは行けないが、コルチュラ島がよく見える半島の先にある町、オレビチ(Orebić)までドライブすることにした。山がちなこの島のドライブは、オリーブ畑やブドウ畑、青い海が見渡せ、どんなけ走っても飽きることはなかった。
オレビチは古くから栄えていたリゾートという感じで、海沿いに豪邸がたくさんあった。高い塀に囲まれていたが、塀の隙間から覗くと、広い庭の奥の素敵な豪邸を見ることができた。一体どんな人たちが住んでいるんだろ?なんてことを思いながら、ビーチに腰を下ろし、子供達が楽しそうに遊ぶ様子を満足な気持ちで見つめていた。
そろそろ空港へ向かう時間がやってきた。もちろん後悔なんてなかった。
しばらく行くとドゥブロヴニクが見えてくる。3週間前この道を通った時は、アルバニアに向かう途中だった。あれから3週間、1つ1つ思い出すと長い3週間だった。スタート地点に戻って来て、改めて今回のこのバルカン半島旅行を終えた達成感と無事に終えることができた感謝の気持ちでいっぱいになった。
歴史が複雑で何度調べても理解することができなかったバルカン半島、今回の旅でその理解が一気に深まった。人懐っこい人々が暮らす美しい自然に囲まれたこの地に、いつか絶対また戻ってこようと思いながら、最後のお別れをした。
September 2nd
ここからは、番外編。
真夜中にマドリードに到着し、ボストン行きの飛行機まで11時間あるため、迷った末マドリードの中心まで出て一泊することにした。夜中にチュロスを食べ、早朝に朝食を食べて少し街を歩いた。そしてまた空港へ戻る。
大したことはできなかったけど、やはり空港でじっとしてるのもなんだし、これで良かったというか、自分らしいチョイスだと自分を笑った。でも少し気がしまったし、また始まる現実への良い予行練習にもなったので、やはり良かったのだろう。
また頑張ろうという気持ちで、ボストン行きの飛行機に搭乗した。
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